窓

ジェフは世界各地を駆け回る報道カメラマンである。しかし、カーレースを撮影中に事故に巻き込まれ、今は脚にギブスをはめられて外出も出来ず、グリニッチ・ビレッジのアパートで無聊の日々を過ごしている。
彼の部屋の窓の外は、中庭をはさんで、向かいのマンションが間近に迫っている。
蒸し暑い夏のことで、どの部屋も窓を開け放したままなので部屋の住人たちのプライバシーがかいま見える。ジェフは退屈しのぎに見るともなしにぼんやりと隣人たちを眺めていた。
そんなある日、彼は、後に殺人事件に発展することになる奇妙な出来事を目撃する――

そんな風にヒッチコック監督映画「裏窓」(1954年)は始まる。
ジェフ(ジェームス・スチュアート)には、リザ(グレイス・ケリー)という恋人がいる。資産家の娘で、おまけにものすごい美人。頭が良く気だても悪くない。理想的な恋人なのだが、一介のカメラマンには過ぎた相手だとジェフは考えている。リザは心から彼を愛していて結婚を望んでいるが、ジェフはこう言って結婚を避けようとする。

「ぼくはケース1個で世界をあちこち飛び回るカメラマンだ。それも決して快適な旅なんかではない。危険で不快な場所が多い。そんな旅が一年中続くんだ。おじょうさん育ちの君には耐えられないよ」

すると、リザはこう言い返すのだ。

「いいわね。終わりのない冒険と休暇がいつまでも続くってことじゃない。」




マディソン02

ロバート・キンケイド(52歳)はナショナルジオグラフィック社の契約カメラマンで、洗濯板のような腹をもち、自分を「最後のカウボーイ」だと考えている男である。
彼は屋根付きの橋を撮るため、西海岸のカナダ国境に近い町からアイオワ州の片田舎マディソン郡まではるばるやって来る。そこで農場主の人妻フランチェスカ(45歳)と出会い、「生涯の恋」に落ちて夢のような4日間を過ごす。1965年のことだ。

いわずと知れたベストセラー「マディソン郡の橋」は、クリント・イーストウッド主演・監督で映画になった。人妻のフランチェスカ役はメリル・ストリープだった。
キンケイドとフランチェスカは親しくなった後、ちょっとした口論となり、こんな会話を交わす。
「ぼくの仕事は旅から旅で、世界中を渡り歩く生活だ。一つの場所に落ち着くことなんてできないんだ」とキンケイド。
するとフランチェスカはこう切り返すのだ。

「それはけっこうね。あなたは誰とも深い関係を結ばず、責任を持とうとせず、気楽に世界を飛び回っているというわけね」


「裏窓」と「マディソン郡の橋」の主人公は共にカメラマンであり、それも忙しく世界を渡り歩く男である。世界を股にかけるカメラマンといえば、男からすれば、なりたい職業ランキングは高いと思われるが、しかし、女性には人気がないようである。結婚して子供を産み、土地に根を生やして子供を育てる生活と、旅を栖(すみか)とするカメラマンは根本的に相容れないのがその理由だろう。
女性から見たら、世界を飛び回るカメラマンの仕事は「終わりのない休暇」のようなものであり、「人と深い関係を結ばず、生活の責任を果たそうとしない自分勝手な男の仕事」でしかないのである。これは言い過ぎだと思うが、生活に根をもつ女からすれば、生活を持たないジェフとキンケイドは成熟した大人になれない子どものような存在でしかないのである。
フィクションだからどちらも最後はそれなりのハッピーエンドだが、現実だったらもっと厳しく、不愉快な結末が二人の将来に待ちかまえていたに違いない。

何かを得ようとするなら、何かをあきらめなければならない。

男がこの映画から学ぶべき教訓である。