「大いなる陰謀」
原題: LIONS FOR LAMBS
アメリカ 映画 上映時間: 92分
製作年度: 2007年



しょっぱなから舞台劇のような長セリフがこれでもかと続くので、字幕に慣れていない人にはかなり辛い映画である。慣れていてもこれだけの長セリフを字幕で追うのは大変だ。意味をとるのに精一杯で、俳優の表情を見るひまもない。内容を把握するためには吹き替えで観るしかない映画だ。しかし劇場まで行って吹き替えというのもちょっと…。字幕なしで観られるようになりたいと思った。

レッドフォードやクルーズ、ストリープなど豪華キャストと予告編に惹かれて映画館に行ったらがっかりすること必定だから、これから観ようと思っている人は予備知識を仕込んでから行く方がいい。いずれにしても仕事の疲れを映画で癒したいと思って出向くような娯楽映画ではないので要注意である。
「ディズニーランドに行ったら偶然昔の恩師に出会い、ありがたくも重々しい話を聞かされてしまった感じ」というネットの映画評がこの映画への期待と実際の落差をよく物語っていると思う。

「大いなる陰謀」という、サスペンスを想起させる邦題はあいかわらず詐欺的・羊頭狗肉的タイトルである。関係者はいいかげんにしてほしい。原題の「Lions for Lambs」は、兵士は勇敢なライオンだが、司令官は臆病で無能な羊でしかなく、そのため兵士が犠牲になっている、といったくらいの意味である。

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レッドフォードの目元が妙にパッチリしすぎているのが気になった。

映画は、ワシントンDC、アフガニスタン、カリフォルニア大学――三つのシーンが同時に進行する。
テロとの戦いの大儀を掲げながらも長引く戦争。国民の厭戦気分を一掃しようと危険な作戦を立案し、個人的野心を遂げようとする政治家(トム・クルーズ)。
商業主義、娯楽主義に陥るジャーナリズムに危機感を抱く誠実なジャーナリスト(メリル・ストリープ)は真実を伝えようとする。しかし図らずも志を曲げる結果となる。「君はもう57歳で、新しい職場を見つけるのは難しい。それに介護の必要な親がいるんだろう。」と上司に“脅迫”されるシーンは身につまされた。
恵まれた境遇にあるのに、政治に幻滅し、世の中を冷笑的に見る無気力で享楽的な学生に、「無関心は現状肯定」につながると説き、行動を促す大学教授(ロバート・レッドフォード)。一方で、退役後の学費免除に魅力を感じて志願兵となる貧しいマイノリティの教え子たちの厳しい現実に心を痛める。

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民主党支持者のレッドフォードの個人的な政治メッセージのような映画であり、これといった派手な演出もないので、アメリカの政治に関心のない人は楽しめないかもしれない。だがネット評にあるように、アメリカの政治だから日本には関係ないと考えるのは間違いだ。
大量破壊兵器が見つからなかったことから、当のアメリカさえイラク戦争に疑問を持ちだしているにもかかわらず、ブッシュのいいなりにイラク戦争に荷担した当時の小泉政権は反省の色もなく沈黙したままだし、小泉元首相の説明責任を問う声も高まらない日本の現状は決してこの映画と無関係ではない。ジャーナリズムの娯楽化、視聴率主義、若者の政治への無関心、金持ちしか高度な教育が受けられないなどの実情も同じである。
メッセージの内容は確かに新鮮だとは言えないが、映画は単なる情報や知識でなく「体験」を提供するものである。その意味ではよくできた映画である。

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映画はどのシークエンスでもあえて結論を出さず、
what do you stand for? どっちを選ぶ?」
と、判断を観客に促す演出になっている。その意味で、この映画は新手の「ローイング・プレイゲーム映画」であり、観客に思考、選択を迫ってくる。
映画の中でレッドフォードが大学生にこんこんと言って聞かせるシーンが続くが、この大学生こそ実は映画の観客なのである。つまり、レッドフォードは登場人物への説明に見せかけて、実際は映画館の若い観客に向かって政治学の講義をしているのである。映画といいうよりレッドフォード先生によるセミナーと考えた方がわかりやすいかもしれない。
そういう次第であるから、この映画に娯楽性を求めるとがっかりするのは間違いないし、デートに彼女を誘う映画ではない。しかし、世界情勢や日本の政治・社会状況に関心のある人なら興味深い映画だと思う。「靖国 YASUKUNI」で大騒ぎしている日本と大違いで、このような映画が公開されるアメリカを改めて見直した。
正直にいうと、こうした劇場版映画ではなく、「NHKスペシャル」でもいいし、3時間のテレビドラマでじっくり作ってもよかったのではないかと思う。興行的にはまるっきり成功しないと思うので、なるだけ映画館で観てやってください。